緑ノ国の王城で、キキョウに預けた牙鳥貝(カラスガイ)がメッセージを運んでくる。
「紫ノ国に白の軍勢が侵攻中! リンドウも文句言いながら迎撃してるけど…旗色は悪いわ」
続いてレモンが、カーキから届いた九鳥貝(ハトガイ)を置いて告げる。
「茶ノ国も同じ状況みたいね」
そしてセレストも、付け加える。
「青ノ国もだよ」
報告を受けたアイビィは、頭を抱えた。
「白が黒境じゃなくて世界を攻撃? 一体どうなっているの…」
側で控えるベイルは、冷静に状況を補足する。
「厳密には、黒境も、そのほかの地も、かまわず攻撃しているみたいだな」
「所構わず…ならこの緑ノ国にも」
アイビィがそう口にしたとき、クロムは白の気配を察知した。
(!!…モノ)
(ああ…来るぞ!)
王城の天蓋を裂き、白皇プラチナが現れる。
しかしその険しい目つきはアイビィを捉え、やがて切なそうな視線に変わる。
「…帰ろう、在るべき場所に。還そう、在るべき世界に」
そしてプラチナは、アイビィを抱きしめるように、両の白翼を優しく広げる。
「お母さん…?」
アイビィは、見たことのない母の面影をプラチナに見る。
惚(ほう)けたようにプラチナの元へ誘われていくアイビィを、その腕を引いてクロムが止める。
その行為を見て、プラチナはクロムを敵と定める。
「…邪魔をするな、穢れた混色が!!」
プラチナの目に険が戻り、慈しむ掌のようだった両の羽根は、剣山のように逆立った。
(まずいっ!!)
プラチナの両翼から無数の白光が、散弾のように射出される。
「くっ…!!」
アイビィたちの前にベイルが、さらにその前にセレストが立ちはだかり、光刃を受ける。
「…防ぎ、きれない?」
白は本来、優しい色だ。
他色を薄めることはあっても、上塗りすることは殆どない。
しかしプラチナが放つ白には、黒だけではない、あらゆる色を…消し去ろうという鋭い意志が宿っていた。
白き刃は、セレストの盾と鎧を穿ち、ベイルの身を斬り裂いた。
「そこぉッ!!」
その背後からレモンが飛び出し、攻撃後の隙を突こうと素早い動きで接近する。
「…ふん」
しかしプラチナは、まるで羽虫を払うが如く、左翼を振るって弾き飛ばす。
「きゃあっ?!!」
吹き飛ばされてきたレモンを、クロムは受け止める。そして、額当てを外す。
(いいな、モノ?)
(ああ…ここは、やるしかねぇだろ!!)
「はぁぁあああああああ!!!!」
クロムの額で、第三の眼が見開かれる。
そして、白の襲撃で散り散りとなった世界中の黒境が、黒が、クロムの元へ集まっていく。
「…いいだろう。今度こそ、跡形もなく浄化してやる!!」
黒皇モノクローム…その姿を見てプラチナは、白剣を構えて飛翔する。
「この前のようにはいかない!!」
意志を持って、黒を纏って、モノクロームはプラチナに相まみえる。
「オォォォオオオオオオオ!!!!」
再び繰り広げられる白と黒の激突…上空では、黒雲に白雷が響き渡る。
前回は、加減をしたプラチナが終始主導権を握っていた。
しかし此度は、プラチナにその余裕はない。
互角の戦いを繰り広げる両者だったが、その胸中は同じではない。
(なぜだ? なぜ、黒を滅することができない?!)
最強の白であるプラチナにとって、他色はまだしも、黒に遅れをとることは許されない。
その孤高の自負と誇りが、焦りによって翳(かげ)っていく。
(いけるぞ! だが…油断はするな!!)
(分かっているさ!!)
対して、モノクローム…モノとクロムは互いに気持ちを支えながら、湧き上がる数多の想いを乗せて、力を収斂(しゅうれん)させていく。
「私は…!」
「俺は…!!」
最後の交錯の刹那、奇しくも両者の視界に、同じ人物の表情が映る。
そしてその勝敗を分けたのは、彼女に対する想いの質の違いだった。
守り、庇護しようとする想いと、共に、歩んで行こうとする想い…
パキィィイイイン!!
黒爪が、白翼を貫いた。
「馬鹿、な…」
揚力を失い、プラチナは落下する。
そして、温かな、緑白の光に受け止められる。
「リリィ…?」
プラチナを受け止めたのは、妹リリィ…その色を、想いを、受け継いだ一人の少女だった。
(どう? この世界には思いもよらない…色々な可能性で溢れているでしょ?)
プラチナの心は確かに…懐かしい、イタズラめいた声を拾った。
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