「国のために王が在るか、王のために国が在るか?」
収穫祭から帰還したガネットの質問に、赤王は耳を傾ける。
「そうなんだ。オレにはよく分かんなかったけど、親父ならどうかなって!」
(成程…)
子ども扱いしていた娘の思わぬ成長振りに、バーミリオンはふと、持論を語りたくなる。
「紫王も緑王も分かっておらぬ。王とは、国そのものなのだ。王とともに国は在り、国とともに王は在る。ゆえに、国のために王は血を流し、王のために国は血を捧げねばならぬ」
ガネットは首を傾け、腕を組む。
「むー…やっぱりオレにはよく分かんねぇな」
その様子を見て、バーミリオンは破顔する。
「ふ…だがそれもまた、考え方の1つに過ぎぬ。お前はお前なりの、王道を考えていけば良い」
「分かったぜ!」
ガネットは、分からないことが分かった、というような、スッキリとした顔で笑った。
バーミリオンは、苦笑しながら話を変える。
「ところでガネットよ、収穫祭は大変だったそうだな。仔細はシルビアから聞いている」
ガネットは少し感化されたようだが、赤王にとって当初の目論見は変わらない。
(この世界から黒境を無くす。そのためには、単一色による統一が必要だ)
「収穫祭の不手際で、賓客(ひんきゃく)たる我が王女の命を危険にさらした罪…これを口実に、一気に緑ノ国を攻め滅ぼす」
そう宣言すると赤王は、その身に炎を滾(たぎ)らせる。
丁度その時、壮観な白翼の軍勢を従えて、プラチナが姿を現した。
「おお、良き頃合だ、プラチナよ。約束通り、これから赤に染まる世界を見せてやろう!!」
赤王は、プラチナの帰国を歓迎するように両の手を広げる。
しかしプラチナはその手を取らず、白翼を広げ突き放す。
「勘違いするな。これより私が行うのは、白き世界への修正だ」
それを合図に配下の白たちは、一斉に赤ノ国へと襲いかかる。
白たちは、黒境も、国土も、分け隔てなく漂白していく。
「貴様…我との約定を違えるか!!」
赤王は、憤怒の炎に身を包む。
「…約定、か」
プラチナは赤王に背を向け、飛び去る。
(私が果たせなかった…果たすべきだった約束は、今も昔も、1つだけだ)
* * * *
「お姉ちゃん。この世界には…もっと色々な可能性があると思うんだ」
プラチナの記憶の中で、リリィはきらきらと笑っている。
「…可能性?」
かつてのプラチナは、少しうんざりしたように問い返す。
「うん。白だからこう、黒だからこう…そういうんじゃなくて、なんていうのかな、一人ひとりに、いろいろな色があると思うんだよね」
「…相変わらず、お前は難しく考えすぎだ」
白は黒を浄化するために遣わされた。だが黒境を弱めれば、また色人達は互いに争い、黒を生み出す。そして、白を頼る。その繰り返し。
プラチナをはじめ、白たちは色人の愚かさに辟易(へきえき)とし、白皇山に閉じこもった。
「お姉ちゃんたちが考えなさ過ぎなんだよ。ただ与えられた役目をこなすのも、嫌気がさして何もしないのも…私に言わせれば、どっちも思考停止だよ」
「……」
プラチナは、しばし黙考する。
「だから、私は山を降りて世界を見てくる。止めないでね、お姉ちゃん!」
そう言うと、リリィは白翼を広げ飛び立とうとする。
「お、おい待て! 外の世界は…白を取り込もうとする愚かさと悪意で溢れているぞ?!」
急な展開にプラチナは焦り、止めようとする。
「だからそれを、確かめに行くんじゃない」
リリィは肩をすくめて返事をする。
そして、イタズラっぽく微笑みかける。
「でも本当に世界が愚かで危険だったら…お姉ちゃんが助けに来てね♪」
「…分かった。約束だ」
プラチナはいつも、この時より前の世界に還りたいと願っている。
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