「紫王の命と私の命…なんとかこれで、この場を収めて頂けないかしら?」
五色の代表者を前にして、紫ノ国の忍キキョウは土下座する。その横で紫王リンドウは、意識を失ったまま拘束されている。
「2人の厳罰は当然じゃが…それだけで済まそうとは少々虫が良すぎやしないかぇ?」
そう言って青王は、ヒレの様な手をひらひらと仰ぐ。
「これほどの混乱を招いて、勝手なのは百も承知です。しかし此度の一件、紫王と私だけで引き起こしたもの…紫ノ国に住む多くの民は関係ありません」
「……」
茶王は考え込むように、ひげを撫でる。
「収穫祭の間、国を預けてきた将軍カキツバタは真っ直ぐな男です。このままリンドウが亡き者となれば、紫ノ国を正しい形に導いてくれることでしょう」
キキョウはなおも語り続ける。
「王とは国のためにある。決して王のための国であってはならない…紫ノ国に仕える忍として、ここで王と果てることこそ、私の使命だと考えています。アイビィ様、貴女なら分かって下さいますよね?」
名前を出されたアイビィに、一同の視線が集まる。
「面を…上げてください」
アイビィはキキョウの覚悟を見てとり、緑王としての態度で返す。
「貴女の想い、覚悟は理解しました。それは、私の、父の、信念に通じるものがあります」
(やはり…)
緑ノ国に潜入し、キキョウが見定めてきた『本質』…それが誤りではなかった、とキキョウは安堵する。
「しかし、そのために多くの人たちを巻き込んだ、貴女のやり方が正解であったとは思えません」
(……)
そこを突かれると、キキョウには返す言葉がない。
「なので、死罪よりも重い罰を要求します。紫王リンドウは退位し、新王の下で執権として、生き恥をさらしてもらいます」
プライドの塊のようなリンドウにとって、かつての部下の下で働くことは、確かに死よりも重い屈辱だろう。
「そしてキキョウさんには、リンドウがまた二心を持たぬよう厳しく監督してもらうとともに…我が国の食客として、逐次情報を流してもらいます」
そう言ってアイビィはキキョウに、秘匿性の高い貝線鳥…牙鳥貝(カラスガイ)を手渡す。
「…それは」
ためらうように受け取りながら、キキョウは問い返す。
「私に二重スパイになれ、ということですか?」
「そういうことですね」
アイビィはあっさりと首肯する。
紫王こそ気を失っているが、各色の代表者が居揃う公の場で、堂々と二重スパイを命じられたキキョウは驚く。
「…諜報員の素性を知られることは、任務と命を危険に晒すことなのですが…」
キキョウは確認するように質問する。
「そうだよ。だから、死ぬより重い罪、なんじゃない。でも貴女の力なら、それでもなんとかできちゃうでしょ。それに貴女にとって、死ぬより重い罰は…使命を危険に晒すこと、なんじゃないかな?」
そう言うとアイビィはイタズラっぽく笑う。
(この人は…)
キキョウは驚く。
時間をかけて、キキョウが、アイビィを見定めていたつもりだった。
しかしアイビィは、この単時間でリンドウとキキョウの2人の本質を見定めた。
(ただの優しい王女さま、という訳ではないのね)
キキョウは己の認識を改める。
そして初めて国ではなく、王そのものに仕えてみたいと思った。
「仰せの通りにいたします」
彩歴996年11月
若き緑王を中心に、黒境で断絶されてきた色世界は徐々に国家間の距離を縮めていく。
かつてない各色の交わりが、今後どのような影響を与えるのか…
それは未だ、誰にも分からない。
第3章 完
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