「ほぉ、これは面白い言伝(ことづて)が届いたぞ」
燃え盛る玉座で頬杖をつき、赤王バーミリオンはその娘ガネットに語りかける。
「なんだ、なにか面白いことでもあったのか?!」
退屈しのぎの懸垂を止め、ガネットはその赫眼(かくがん)を期待に煌めかせて問い返す。
「緑ノ国からの招待だ。収穫祭に来ないか、だと。まったく、これから侵略されようという国の王を呑気に祭りに誘うなど…やはり、猫どもの頭の中はお花畑らしい」
赤王は嗤う。
「親父は行かないのか?」
ガネットは首を傾ける。
「行かぬ。なんならば、そこの使者の首を刎ねて送り返してやろうと思っておる」
指さされた植人族(ベジド)の使者は、青ざめる。
「なら、オレが行ってもいいか?!!」
「…何?」
娘の唐突な申し出に、バーミリオンは不意を突かれる。
「親父は行きたくないんだろ? だったら代わりにオレが行くぜ! なんせ、オレはヒマだからな!!」
「……」
そういうことではない、と言いかけて、ふとバーミリオンは思いとどまる。
(いや、しかしそれは妙案かも知れぬ…)
緑ノ国では、あの甘い小娘が国王になったと聞く。であれば、客人に滅多なことはして来まい。
それにもしも、その場でガネットの身に何かが起ころうものなら…
(それを口実に、戦を起こす火種となるか)
バーミリオンは素早く計算し、ガネットの提案を『有り』と判断した。
「よかろう。ならば、ガネットよ…其方(そなた)が代わりに行くといい。フハハハ! 命拾いしたな、ベジドの使者よ!!」
「…は、はぁ」
植人族は平伏する。
「シルビア、其方(そなた)もついて行ってやれ」
そしてバーミリオンは、シルビア…未だ白皇山から戻らないプラチナの代理だとして現れた、新たな『白』に声をかける。
「……zzz」
しかしシルビアと呼ばれた白翼の少女は、赤王の背後で立ち眠りをしている。
「シルビア!!」
「んぁ? …寝てないですよ。白として、黒の世界をパトロールしていたのです。ナイトメアと言う名の闇の世界を…」
そしてシルビアは、口から垂れたよだれも拭かずにそう答える。
「……」
身を焦がすような赤王の圧を前にして、これほどマイペースを貫ける存在も珍しい。
「なんでも良いが、行け。命令だ」
バーミリオンは、その身の炎をたぎらせる。
「そんな起き抜けに行けって言われても、どこに行けばいいのか分かりませんよ。こっちは話を聞いてないんだから」
「…寝てたんじゃねぇか」
呆れ顔のシルビアに、さらに呆れ顔で赤王は返して、話の流れを説明する。
「じゃあ、行ってくらぁ!!」
赤王の説明が終わるや否や、ガネットは火の玉のように飛び出していく。
「あ、ちょっと待ってくださいよ。シルビアはまだ、行くと決めたわけでは…」
なおも煮え切らないシルビアに、赤王がぎろりと睨みつける。
「は〜い、王様の命令はぜった〜い」
諦めたように、シルビアも飛び立っていく。
「…ったく」
2人を見送った赤王は、王城に取り残された植人族の使いを見下ろす。
「…して、貴様はどうする。その足で帰るか? それともやはり、首だけにして送ってやろうか?」
赤王は、気晴らしとばかりに使者をからかう。
「じ、自分の足で帰りまするぅううう!!」
植人族は再び青ざめ、全速力で駆け出した。
* * * *
「赤王の娘、ガネット様御一行のご到着です!!」
盛大なファンファーレを受けて、ガネットとシルビアは祝宴の場に通された。
「うぉぉおおお! すごいな!! どれも、うまそうだ!!」
「たしかに…これは食指をそそられますね。じゅるり」
盛大に飾りつけられた王庭のテーブルには、賑やかな食材が並んでいる。
中でも一際目を引くのは、収穫祭の目玉であるおだんごうお…それを各国の手法で調理した、郷土料理の盛り合わせだった。
「見ろ、シルビア! 我が国の伝統料理、『丸焼き』もあるぞ!!」
「…それは伝統料理、と呼んで良い代物なんですかね」
コントのようなやり取りを横目に、先に着座していた紫ノ国の王、リンドウは貴族然とした振る舞いで、ひとりごちる。
「ほほほ、ほんに、赤の国の人らはいつも元気がよろしいなぁ。一番後にお見えになって、何の挨拶もなくはしゃぎ回るとは…いやはや、その元気があってこそ、今の赤ノ国の勢いなんやろうなぁ。見習いたいわ、ほんまに」
紫王リンドウ…彼は特異な術色を持つ詩人族(ヒューマン)の王だ。自身を、風流を愛する雅人であると捉えている。
「おう、ありがとな! 見習え、見習え!!」
皮肉の通じないガネットは、どこふく風で着座する。
「ほんに、見習わせてもらいましょ(…無風流な雌餓鬼め)」
リンドウは内面の苛立ちをおくびにも出さず、変わらぬ口調でそう答える。
招待客が皆着席したことを確認して、主催者のアイビィは精一杯声を張り上げる。
「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます!! 今日は…それぞれの立場や国色を超えて、色神様の恵みに感謝する日にいたしましょう!!」
赤、緑、青、黄、茶、紫…代理・代行の赤、黄を含めて、全色の代表者が集まることとなったこの年の収穫祭は、こうしてその幕を上げた。
* * * *
「そっちは赤、そっちは茶のテーブルに…青王様のところには、セレストさんが持っていって!!」
裏方は大忙しだ。
実行委員長のキャベジは、せっせと各所に指示を出す。
「こちらは…黄の王女様と、アイビィ様にお出しすれば良いかしら?」
そこへ、兎耳のついた艶やかな女性が声をかける。
「ありがとうございます! 指示を出さなくても的確に動いて下さる、アルミラさんのような方が来てくださって本当に助かります!!」
収穫祭の準備のために臨時採用した侍従の中でも、アルミラと呼ばれた女性の活躍は突出していた。
キャベジは頭の新芽をぴょこぴょこさせて、心底ありがたそうに頭を下げる。
「うふふ…こちらこそありがとうございます。それでは、行って参りますね♪」
アルミラ、と呼ばれた女性は、料理を持って会場へと戻る。
(随分簡単に信頼されちゃったわね。でもこれも『使命』…恨みっこなしよ)
彼女の瞳は、妖しく光った。
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