紫秋ノ章 第2話


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「ほぉ、これは面白い言伝(ことづて)が届いたぞ」

 燃え盛る玉座で頬杖をつき、赤王バーミリオンはその娘ガネットに語りかける。

「なんだ、なにか面白いことでもあったのか?!」

 退屈しのぎの懸垂を止め、ガネットはその赫眼(かくがん)を期待に煌めかせて問い返す。

「緑ノ国からの招待だ。収穫祭に来ないか、だと。まったく、これから侵略されようという国の王を呑気に祭りに誘うなど…やはり、猫どもの頭の中はお花畑らしい」

 赤王は嗤う。

「親父は行かないのか?」

 ガネットは首を傾ける。

「行かぬ。なんならば、そこの使者の首を刎ねて送り返してやろうと思っておる」

 指さされた植人族(ベジド)の使者は、青ざめる。

「なら、オレが行ってもいいか?!!」

「…何?」

 娘の唐突な申し出に、バーミリオンは不意を突かれる。

「親父は行きたくないんだろ? だったら代わりにオレが行くぜ! なんせ、オレはヒマだからな!!」

「……」

 そういうことではない、と言いかけて、ふとバーミリオンは思いとどまる。

(いや、しかしそれは妙案かも知れぬ…)

 緑ノ国では、あの甘い小娘が国王になったと聞く。であれば、客人に滅多なことはして来まい。

 それにもしも、その場でガネットの身に何かが起ころうものなら…

(それを口実に、戦を起こす火種となるか)

 バーミリオンは素早く計算し、ガネットの提案を『有り』と判断した。

「よかろう。ならば、ガネットよ…其方(そなた)が代わりに行くといい。フハハハ! 命拾いしたな、ベジドの使者よ!!」

「…は、はぁ」

 植人族は平伏する。

「シルビア、其方(そなた)もついて行ってやれ」

 そしてバーミリオンは、シルビア…未だ白皇山から戻らないプラチナの代理だとして現れた、新たな『白』に声をかける。

「……zzz」

 しかしシルビアと呼ばれた白翼の少女は、赤王の背後で立ち眠りをしている。

「シルビア!!」

「んぁ? …寝てないですよ。白として、黒の世界をパトロールしていたのです。ナイトメアと言う名の闇の世界を…」

 そしてシルビアは、口から垂れたよだれも拭かずにそう答える。

「……」

 身を焦がすような赤王の圧を前にして、これほどマイペースを貫ける存在も珍しい。

「なんでも良いが、行け。命令だ」

 バーミリオンは、その身の炎をたぎらせる。

「そんな起き抜けに行けって言われても、どこに行けばいいのか分かりませんよ。こっちは話を聞いてないんだから」

「…寝てたんじゃねぇか」

 呆れ顔のシルビアに、さらに呆れ顔で赤王は返して、話の流れを説明する。

「じゃあ、行ってくらぁ!!」

 赤王の説明が終わるや否や、ガネットは火の玉のように飛び出していく。

「あ、ちょっと待ってくださいよ。シルビアはまだ、行くと決めたわけでは…」

 なおも煮え切らないシルビアに、赤王がぎろりと睨みつける。

「は〜い、王様の命令はぜった〜い」

 諦めたように、シルビアも飛び立っていく。

「…ったく」

 2人を見送った赤王は、王城に取り残された植人族の使いを見下ろす。

「…して、貴様はどうする。その足で帰るか? それともやはり、首だけにして送ってやろうか?」

 赤王は、気晴らしとばかりに使者をからかう。

「じ、自分の足で帰りまするぅううう!!」

 植人族は再び青ざめ、全速力で駆け出した。

 * * * *

「赤王の娘、ガネット様御一行のご到着です!!」

 盛大なファンファーレを受けて、ガネットとシルビアは祝宴の場に通された。

「うぉぉおおお! すごいな!! どれも、うまそうだ!!」

「たしかに…これは食指をそそられますね。じゅるり」

 盛大に飾りつけられた王庭のテーブルには、賑やかな食材が並んでいる。

 中でも一際目を引くのは、収穫祭の目玉であるおだんごうお…それを各国の手法で調理した、郷土料理の盛り合わせだった。

「見ろ、シルビア! 我が国の伝統料理、『丸焼き』もあるぞ!!」

「…それは伝統料理、と呼んで良い代物なんですかね」

 コントのようなやり取りを横目に、先に着座していた紫ノ国の王、リンドウは貴族然とした振る舞いで、ひとりごちる。

「ほほほ、ほんに、赤の国の人らはいつも元気がよろしいなぁ。一番後にお見えになって、何の挨拶もなくはしゃぎ回るとは…いやはや、その元気があってこそ、今の赤ノ国の勢いなんやろうなぁ。見習いたいわ、ほんまに」

 紫王リンドウ…彼は特異な術色を持つ詩人族(ヒューマン)の王だ。自身を、風流を愛する雅人であると捉えている。

「おう、ありがとな! 見習え、見習え!!」

 皮肉の通じないガネットは、どこふく風で着座する。

「ほんに、見習わせてもらいましょ(…無風流な雌餓鬼め)」

 リンドウは内面の苛立ちをおくびにも出さず、変わらぬ口調でそう答える。

 招待客が皆着席したことを確認して、主催者のアイビィは精一杯声を張り上げる。

「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます!! 今日は…それぞれの立場や国色を超えて、色神様の恵みに感謝する日にいたしましょう!!」

 赤、緑、青、黄、茶、紫…代理・代行の赤、黄を含めて、全色の代表者が集まることとなったこの年の収穫祭は、こうしてその幕を上げた。

 * * * *

「そっちは赤、そっちは茶のテーブルに…青王様のところには、セレストさんが持っていって!!」

 裏方は大忙しだ。

 実行委員長のキャベジは、せっせと各所に指示を出す。

「こちらは…黄の王女様と、アイビィ様にお出しすれば良いかしら?」

 そこへ、兎耳のついた艶やかな女性が声をかける。

「ありがとうございます! 指示を出さなくても的確に動いて下さる、アルミラさんのような方が来てくださって本当に助かります!!」

 収穫祭の準備のために臨時採用した侍従の中でも、アルミラと呼ばれた女性の活躍は突出していた。

 キャベジは頭の新芽をぴょこぴょこさせて、心底ありがたそうに頭を下げる。

「うふふ…こちらこそありがとうございます。それでは、行って参りますね♪」

 アルミラ、と呼ばれた女性は、料理を持って会場へと戻る。

(随分簡単に信頼されちゃったわね。でもこれも『使命』…恨みっこなしよ)

 彼女の瞳は、妖しく光った。

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