ガサガサガサガサ…
先の戦乱によって新たにできた黒境の中を、ベルデは足速に駆けている。
「なに、足手纏いを連れた羽虫にも通過できたのだ。オレ様にできぬ道理はない」
ベルデは大型の黒を避け、飛来する小型の黒を錫杖槍で叩き落としながら、器用に黒境を進んでいく。
「戦争を、死んだふりでやり過ごせたのは暁光であったというもの。しかし、オレ様も早く戻り、爬人族再興の手筈を考えなくては…」
赤ノ国となった旧黄ノ国領から黒境を抜け、ベルデは爬人族の集落を目指している。
戦地で目を覚まして以降、薄目を開けて状況を見ていたベルデは、緑王が落命したことを知っている。
(順当にいけば、跡を継ぐのはあの王女か? 甘ちゃんの彼奴ならへつらうのは簡単そうだが、堅物の側近、ロクショウあたりが実権を握ると厄介だな…)
逞しい思索を巡らせるベルデはそこで、黒境の中に人為的な横穴を見つけた。
「おや…?」
好奇心と爬人族としての嗅覚が、急ぐ足を止め、ベルデを洞内へと導いていく。
「これは…!!」
ベルデの目の前に現れたのは、霊廟だった。
歴代甲人の女王達と、彼女らに仕えた英霊達を祀る静謐(せいひつ)な祠…
(黄ノ国には、盗掘を避けるべく秘匿された甲人族の霊廟があると聞いたことがあるが…)
「そうか、黒境となったことで、聖域の入り口が露出したのか!!」
ベルデは舌なめずりをする。
甲人族の技巧を凝らした装具と宝飾品の数々に、ベルデは目を奪われる。
「なんと! カモミラの后冠もあるではないか!!」
戦乱の後に、何者かがここに安置したのだろう。
(あの高飛車な女王の兜を我が手中に…!!)
ベルデは、興奮に瞳孔を見開きながら、その宝冠に手を伸ばす。
ざむ。
「あ…?」
しかしその視線は宙を舞い…次に、首を切り離された自身の胴体、そしてその背後に立つ漆黒の騎士の姿を捉えて、途絶えた。
「下衆が」
全身を黒の甲冑に身を包んだ騎士は、ベルデの頭を踏みつける。
色を流すベルデの首に入り込もうと、『黒』が這い寄ってくる。
ずぶ。
黒騎士は、それすらも許さないというように、ベルデの頭に刀を通す。
ざわ…ざわわ…
行き場を失った黒は、突き立てられた漆黒の刃を通して、騎士の体へと流れ込む。
「はぁぁぁぁ…」
黒をその身に取り込んで、騎士は深く息を吐く。
「…王国の敵は、私が屠る」
黒騎士は霊廟を後にする。
亡国を見据えるその眼は、黒い、虚空を見つめていた。
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