赤春ノ章 第3話


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 塵舞う茶ノ国の荒野を、クロム一行は進んでいる。

 皆一様に口は重い。

 しかし兜の意思を無駄にしないように、速度を落とさず懸命に足を進めていく。

 それでも乾いた大気と照り付ける陽光は、容赦なく一行の体力を奪っていく。

「もう…疲れたわ」

 最初に限界を迎えたのはレモンだった。

 楽しかったはずのティーパーティから一転、彼女の身に降りかかった災厄は、彼女の気力をへし折るのに十分すぎるものだった。

「……」

 クロムとアイビィは顔を見合わせる。

 レモンの心境は痛いほど理解できる。

 しかし少しでも早く、現状を緑王に伝え、レモンの身柄を安全な場所に移さなくては、とも考える。

 一行は、思案しながらしばし足を止めた。

 すると…

 さぁぁああああ!

「?!」

 レモンの目の前の砂が盛り上がり、地中からレンガでできた円筒状の物体が現れた。

「なんや、お困りのようやな?」

 円筒の頂上部分が開き、中から糸目の土人族(ドワーフ)が顔を出す。

「な……」

 一同は呆気に取られる。

「ああ、あんさんらは、石人形(ゴーレム)を見るのは初めてか? まぁ、中でもワイの煉瓦人形(ブロックゴーレム)は特別製やからな」

 土人族は、嬉々として自己紹介する。

「ワイはカーキ、ほんでこの煉瓦人形は相棒のアレキサンドラことアリーちゃんや」

「リィ!!」

(キキキ、これまた面白い相棒もいたもんだな!)

 得意げに腕を振り上げるアリーを横目に、クロムの額でモノが笑う。

「砂漠の歩き旅は大変やろ? そこのかわい子ちゃんに免じて、ワイが運んでやってもええで?」

 そう言うとカーキは、レモンにウインクを送る。

「はぁ?! 何、こいつ、気安いんだけど!! アタシ、チビは好きじゃないのよね!!」

 かわい子ちゃん呼ばわりされて、レモンは気色ばむ。

 しかし、先ほどまでの消沈した様子に比べると、ずいぶん良い兆候であるようにクロムには思えた。

「ありがとう! お言葉に…甘えても良いかな?」

 この機会を逃すまいと、クロムは答える。

「よっしゃ、交渉成立や! 運賃は…かわい子ちゃんの名前、ってことでどうや?」

 一同の視線がレモンに集まる。

「…そのくらいなら、良いわよ。いつまでもかわい子ちゃん、は願い下げだし。アタシはレモン! アタシのアッシーになれること、せいぜい光栄に思うことね!」

 そう言ってレモンは、アリーに飛び乗る。

 クロムとアイビィは、いつもの調子を取り戻し始めたレモンの様子にひとまず胸を撫で下ろし、階段状に変形したアリーの側面に足をかける。

 カーキは皆を歓迎しながら、レモンに向けて笑いかける。

「よっしゃ! よろしくな、レモン。旅は道連れ、世は情け…せっかくの道中、楽しく行こうや!」

「…だから気安いのよ!!」

 クロムは、カーキの明るさに、今は心の底から感謝した。

 * * * *

「へぇ、このあたりのマジロ種はおとなしいのね」

 遊覧車のように組み替えられたアリーの客座から、レモンは緩やかに流れる外の景色を眺めている。

 砂漠では、柑橘類のような厚い皮をもつ動色物…オレマジロがのんびりとオアシスの草をはんでいた。

「せやな。懐くと荷物を運んだりもしてくれるから…ゴーレムを使えない土人族にとっては、いっちゃん身近な輸送手段になっとるな」

「へぇ、黄ノ国にいるグレフルマジロはもっと大型で…蟻塚を壊して回るちょっと困ったヤツだったわよ」

「……」

 遠くを見るようなレモンの感想に、カーキは細い目を向けて尋ねる。

「言いたくなかったら無理に答えんでもええんやけど…故郷で一体何があったんや?」

 クロムとアイビィはレモンを見つめる。

「いいわよ、別に今更隠すようなことじゃないし…」

 少しの沈黙のあと、レモンはこれまでの経緯を説明した。

「……」

 カーキの目から、滝のような涙が流れる。

「ちょ…何でアンタが泣くのよ?! 別に同情されたくて話したわけじゃないんだけど?!」

 対照的に、レモンは眉をひそめる。

「大変やったんやなぁ…そして、兜はんの気持ち、めっちゃ分かるわぁ。兜はんは何を差し置いても…レモンの、その笑顔を守りたかったんやなぁ」

「な…?!」

 予想外の感想に、レモンは顔を赤らめる。

「よっしゃ、決めたで! ワイがきちんと、あんさん達を緑ノ国まで送り届けたる!! 茶王には、他色種には見せたらアカンと言われとるんやが…実は土人族にとって、黒境侵犯はお手のものなんや。アリー!!」

「リリィ!!」

 カーキの号令で、アリーの構成が組み変わる。

 そしてアリーは、先端にドリルのような突起をもった、地中掘削艇へと変形した。

「おおー!!」

 クロムとアイビィは純粋に感嘆の声を上げる。

 モノも感心した様子で、クロムの内面に語りかける。

(キキ、成程…黒境でも、地下の侵蝕は穏やかだからな。いい仲間に出会えたじゃないか?!)

(ほんとうにね)

 ころころと変わる表情を取り戻したレモンを見て、クロムは久しぶりに、自身の相棒との対話を楽しんだ。

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