赫眼ノ章 第5話


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「大将首はどいつだ?!」

 黄の王宮に飛び込んだガネットは、その煌びやかな赫眼(かくがん)で見廻しながらそう言った。

「…な?!」

 突然の乱入者に、兜をはじめ甲人族の軍勢は驚く。

「お前だな!!」

 そしてガネットの赫眼は、この場で最も強そうな兜を捉え、襲いかかる。

「く…!!」

 兜は刀で応戦する。

(好機…だナ!)

 思わぬ戦局の変化に乗じて、ネジレバネはこの場からの脱出を図る。

 そしてネジレバネは、王宮の出入口で様子を伺うグレンの姿を認める。

「その身体…速そうだナ?」

 そういうと鋸の眼部から翅繊維が、蕾(つぼみ)のように盛り上がる。

 そして蕾が花開き、中心からネジレバネの本体が、弾丸の様に射出される。

「な?!」

 突然のおぞましい出来事に、グレンは身体を硬直させる。

 一方ガネットの赫眼は、その類稀な動体視力でネジレバネの行動を捉える。

 そして兜への攻撃を中断し、グレンとネジレバネの間に身体を割り込ませた。

 ドシュ!

 結果、ネジレバネはガネットの赫眼に入り込む。

 そして太い視神経を道筋に、ガネットの脳を目指して突き進んだ。

「ふはははハハ! これは暁光! このままこの鬼子の身体を乗っ取ってくれル!!」

「…じゃねぇ」

 ガネットは、その身に起きていることを理解したわけではない。

 しかし本能的に、躊躇(ためら)うことなく最善手を実行する。

 すなわち、その片目に指を入れ、視神経ごとネジレバネを引き摺り出した。

「ナ…?!」

 突如、外気にさらされたネジレバネの方が驚く。

「オレの騎獣に、ちょっかいかけてんじゃねぇ!!」

 ジュッ

 ガネットは、その掌から迸る熱で、ネジレバネを焼却する。

 そして左目の孔から鮮血を垂らしながら、告げる。

「セクトの人、待たせたな! さぁ、楽しい戦いの再開だ!!」

 ガネットは満面の笑みを浮かべて、兜に向けて飛び掛かった。

「……」

 その行動は、百戦錬磨の兜をさえもたじろがせた。

 そして兜は反撃を逡巡し、回避行動をとる。

「…っとお!」

 空振りをしたガネットは、片目になったことで距離感を誤り、よろける。

 そしてよろけるガネットを支えようと近寄るシルビアよりも疾く、赤い影がガネットを咥(くわ)え、その背に乗せる。

「おお。グレンか、助かったぜ!!」

 グレンは背中のガネットに問う。

「なぜ、我を助けた? そのために、己が身に重傷を負ってまで…」

 ガネットは、こともなげに答える。

「上に立つ者が下に在る者を守るのは、当たり前のことだ。それに片眼ってのも…グレンとお揃いでカッコイイだろ?!」

 そう言って、ガネットは笑う。

「…我が主」

 グレンは、仕えるべき主を見定めた。

「はぁ、やれやれ、仕方ないですねぇ。ここじゃ、とりあえずの止血くらいしかできませんよ?」

 追いついたシルビアが、白の力で応急処置を施す。

「おお、すげぇ、血が止まった! ん…でもなんだか眠くなって…zzz」

 やがてガネットは、グレンの背中で眠りこける。

「ガネちんは、口で言っても絶対に安静にしてくれないから、シルビアちゃんの術色で眠ってもらいました。てへぺろ⭐︎」

 謎のポーズを決めて、シルビアはグレンに目配せをする。

 グレンは頷き、待機させていた配下のサラマンド達を入城させ、猛る。

「聞け、セクトの戦士たちよ! 我らは主を連れて退却する。大人しく道を開けるというのなら、この場と王宮は其方達に預けよう。だが、邪魔立てしようと言うのであれば…我ら一丸となって、どちらかが滅びるまで戦うことになるぞ!!」

「シルビアちゃんも本気出すからねー」

「……」

 兜、レモン、カーキ、そして甲人族の戦士たちは顔を見合わせる。

 そしてレモンが代表して、回答する。

「アタシたちもこれ以上の戦闘は望まないわ。アナタたちがこの王宮から退いてくれるというのなら、黄ノ国の王女レモンの名において、その背を追わないと誓うわ!!」

「…結構」

 グレンは、ニヤリと笑って退却する。

 雄に優る雌などいない…爬人族であった時の常識が崩れていくことを、今のグレンは清々しく思う。

 対して、赤の一団を見送りながら兜は思う。

(赤ノ国はまた強くなるな。今は王宮を奪還できたことを喜びたいところだが、王女を見逃したことは後の我らにとって、むしろ致命傷となるかもしれぬ…)

 同時に、隣で凛と胸を張る妹を見て、微笑む。

(だがまぁそれは、向こうにしても同じこと。…これからの世界の行く末は、これからの世代に委ねるとしよう)

 彩暦997年3月

 黄の王女達が王宮と国土を奪還したことで、各色国の領域は、赤春の戦い以前の状態へと回帰する。

 しかし、振り出しに戻ったわけではない。

 各色国の内側では、自分なりの色を見つけ、自分らしい輝きを放つ…次代の担い手たちが育ち始めているのだから。

外伝 完

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