赫眼ノ章 第4話


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(ったく、何でこんなことに…)

 赤の王女ガネットをその背に乗せながら、隻眼の赤鱗族(サラマンド)族長、グレンは一人毒づいている。

 グレンはかつて、爬人族(リザド)の次期族長と目されていた。

 しかしベルデの闇討ちで片目を潰されて以降、外面を重視する爬人族の中で、出世する道は遠のいた。

 そしてベルデの娘であるベイルが族長を継いだ時、彼は自分を慕う一派を連れて赤ノ国に亡命した。

 グレンは、ベイル自体への悪感情はない。しかし彼にしてみれば、己を失脚させた者の子…それも女子(おなご)が統治する群れの中に、どうしてもその身を置くことができなかったのだ。

(女の下から逃れたはずが、女の下に敷かれるとは…)

 グレンは、赤王の威厳と能力主義の風潮に惹かれ、赤に帰化したつもりだった。

 にもかかわらず与えられた職責が、年端もいかぬ王女の騎獣なのだから、彼が感じた屈辱は深い。

「おおー、速い速い! グレン、お前、いい脚しているなー!!」

「……」

 加えてガネットの無邪気な物言いが、グレンの神経を逆撫でする。

(せいぜいはしゃいでいるがいい。ガキの初陣だ、何があっても可笑しくはあるまい…)

 グレンはフン、と鼻を鳴らす。

 そして疾く戦場に着くことだけを楽しみに、駆けた。

 * * * *

 ギィィイイン!!

 黄の王宮では、兜とネジレバネの死闘が続いている。

 ネジレバネは鋸の両腕から、その名の由来である一対の巨大な回転鋸(チェーンソー)を駆動させ、兜に襲いかかる。

「フンッ」

 回転鋸は、正面から受けた相手の武器や防具を破壊する。

 兜は器用に鋸の直撃を避け、あるいは側面から弾き、応戦する。

「くそ…ちょこざい、ナ!!」

 それでも本来であれば、武器相性と体格からして、鋸が有利であることには変わりはない。

 しかし借り物の体を使役するネジレバネの精神の未熟さが、兜に大きく有利に働く。

「貰った!」

「ぐぅッ!?」

 やがて兜は、再び鋸の片腕を斬り落とし、今度は翅繊維で再生されないように、細切れにする。

「く…くソ!!」

 戦闘の間隙に、ネジレバネは戦況の変化を認識する。

 すなわちネジレバネは、陽炎姉弟を始め、周りの甲人族の兵士たちが、レモンの側に靡(なび)いていることを悟った。

「旗色が悪い…ナ」

 ネジレバネは逆転の起点を探す。

 ドォォオオオオン!!

「大将首はどいつだ?!」

 するとそこへ、爆音とともに、赫い眼をした鬼人族の少女が飛び込んできた。

 * * * *

 一寸前…

「あれが甲人族に奪われた蜂の巣だな?!」

 ガネットはグレンの背に乗り、黄の王宮に到着した。

「よし、早速つついてみるぞ!」

「え? あ、ちょっと…」

 少し後方を飛んでいたシルビアの静止もむなしく、ガネットはグレンを足場に、火の玉となって突入する。

「……」

 グレンは空になった背中を見上げて、独りごちる。

(どこかの戦場で振り落としてやろうかと思っていたが、自分から戦火に飛び込んでいくとは…本物のバカか? それとも…)

「はぁ、様子見にいかなきゃダメ、ですよねぇ…」

 諦めたように、シルビアが追いかける。

「……」

 続いて突入するべきか否か、サラマンドの部隊は確認するようにグレンを見上げる。

「…お前たちは、突入準備を整えて入口で待機だ。我が、様子を覗いてくる」

 グレンはわざと配下を残し、単騎でガネットに追従した。

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