(ったく、何でこんなことに…)
赤の王女ガネットをその背に乗せながら、隻眼の赤鱗族(サラマンド)族長、グレンは一人毒づいている。
グレンはかつて、爬人族(リザド)の次期族長と目されていた。
しかしベルデの闇討ちで片目を潰されて以降、外面を重視する爬人族の中で、出世する道は遠のいた。
そしてベルデの娘であるベイルが族長を継いだ時、彼は自分を慕う一派を連れて赤ノ国に亡命した。
グレンは、ベイル自体への悪感情はない。しかし彼にしてみれば、己を失脚させた者の子…それも女子(おなご)が統治する群れの中に、どうしてもその身を置くことができなかったのだ。
(女の下から逃れたはずが、女の下に敷かれるとは…)
グレンは、赤王の威厳と能力主義の風潮に惹かれ、赤に帰化したつもりだった。
にもかかわらず与えられた職責が、年端もいかぬ王女の騎獣なのだから、彼が感じた屈辱は深い。
「おおー、速い速い! グレン、お前、いい脚しているなー!!」
「……」
加えてガネットの無邪気な物言いが、グレンの神経を逆撫でする。
(せいぜいはしゃいでいるがいい。ガキの初陣だ、何があっても可笑しくはあるまい…)
グレンはフン、と鼻を鳴らす。
そして疾く戦場に着くことだけを楽しみに、駆けた。
* * * *
ギィィイイン!!
黄の王宮では、兜とネジレバネの死闘が続いている。
ネジレバネは鋸の両腕から、その名の由来である一対の巨大な回転鋸(チェーンソー)を駆動させ、兜に襲いかかる。
「フンッ」
回転鋸は、正面から受けた相手の武器や防具を破壊する。
兜は器用に鋸の直撃を避け、あるいは側面から弾き、応戦する。
「くそ…ちょこざい、ナ!!」
それでも本来であれば、武器相性と体格からして、鋸が有利であることには変わりはない。
しかし借り物の体を使役するネジレバネの精神の未熟さが、兜に大きく有利に働く。
「貰った!」
「ぐぅッ!?」
やがて兜は、再び鋸の片腕を斬り落とし、今度は翅繊維で再生されないように、細切れにする。
「く…くソ!!」
戦闘の間隙に、ネジレバネは戦況の変化を認識する。
すなわちネジレバネは、陽炎姉弟を始め、周りの甲人族の兵士たちが、レモンの側に靡(なび)いていることを悟った。
「旗色が悪い…ナ」
ネジレバネは逆転の起点を探す。
ドォォオオオオン!!
「大将首はどいつだ?!」
するとそこへ、爆音とともに、赫い眼をした鬼人族の少女が飛び込んできた。
* * * *
一寸前…
「あれが甲人族に奪われた蜂の巣だな?!」
ガネットはグレンの背に乗り、黄の王宮に到着した。
「よし、早速つついてみるぞ!」
「え? あ、ちょっと…」
少し後方を飛んでいたシルビアの静止もむなしく、ガネットはグレンを足場に、火の玉となって突入する。
「……」
グレンは空になった背中を見上げて、独りごちる。
(どこかの戦場で振り落としてやろうかと思っていたが、自分から戦火に飛び込んでいくとは…本物のバカか? それとも…)
「はぁ、様子見にいかなきゃダメ、ですよねぇ…」
諦めたように、シルビアが追いかける。
「……」
続いて突入するべきか否か、サラマンドの部隊は確認するようにグレンを見上げる。
「…お前たちは、突入準備を整えて入口で待機だ。我が、様子を覗いてくる」
グレンはわざと配下を残し、単騎でガネットに追従した。
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