鋸(ノコギリ)とその配下の甲人族(セクト)達は、王宮で兜とレモンの生還を歓待した。
「ガハハハ、我らは赤ノ国との敗戦後に生き残った兵士達を束ねて、蜂起の機会を覗っていたのだ。そうしたら、白の襲撃で赤の奴ら、本国に引き上げていくではないか? わずかばかりの守備兵を蹴散らして、我らが奪還を果たしたと言うわけだ!!」
兜と盃を交わしながら、鋸は機嫌よく喋っている。
「成程…左様でしたか」
兜は静かに杯を返す。
甲人族に囲まれて、土人族のカーキは所在なさそうにキョロキョロしている。
「しっかしレモン殿、ご無事で何よりじゃあ。レモン殿が帰ってきて下さったのであれば、黄ノ国は安泰じゃあ。どれ、我輩と蜂蜜酒でも…」
鋸は上機嫌で、レモンに黄ノ国の銘酒を注ごうとする。
「あ、いや、アタシは未成年だから…」
レモンは場の雰囲気に戸惑いながらも、きっぱりと断る。
「そうか? レモン殿は意外とお堅いのだな。酒が入ったほうが、スムーズに運ぶかと思ったのだが…まぁ、良い。では、レモン殿、始めましょうぞ」
そう言うと鋸は宴もそこそこに、その太い腕でレモンを掴み、連れ去ろうとする。
「えっ?」
突然のことにレモンは驚く。
すかさず、兜はレモンの手を取り、引き留める。
「何を…始めようというのです?」
兜の問いに、鋸は答える。
「決まっているだろう? 子作りだよ」
ガハハと鋸は嗤う。
「な…!?」
レモンは耳を真っ赤にし、カーキは飲んでいたハーブティーを吹き出す。
「心配なさらずとも結構ですぞ。確かにまだちと幼いが…我輩が、女王にしてしんぜよう!!」
レモンの肢体を舐めるように見て、鋸は下卑た笑みを浮かべる。
兜は、感じていた違和感を確信に変えた。
「…貴様、誰だ?」
そして鋸の野太い腕を切断し、レモンを取り戻すとカーキに預ける。
「……あれれれレ? 何で、ばれタ? 黄ノ国の再興のためには兵士達がいる。そしてそのために、女王と最も強いオスが交わる…特に違和感のないストーリーだったはずなのだけれド?」
鋸…と呼ばれていた者の口調が変わる。
そして、斬り落とされた腕の付け根から、薄い翅のような繊維が蠢動(しゅんどう)し、捻(ねじ)れ…地に落ちた前腕を接合する。
『ネジレバネ』…鋸の体を操っていたのは、主に甲人族を宿主とする、紐状の寄生色物だった。
「いやっ…!」
卒倒しそうになるレモンを、カーキが支える。
「カーキくん…レモンを頼んだよ」
その様子を見て、兜は視線をネジレバネに据え、刀を構える。
「鋸隊長は誰よりも黄王…カモミラ様に忠義を誓っていた。だからその息女に無礼な行いをするはずがない。何よりも、カモミラ様が落命した戦場で…のうのうと生き永らえているはずがない!!」
「キキキ…確かに、それはその通りだヨ。本来ワタシはあの戦乱のどさくさで…カモミラに寄生しようとしたのサ。でもこいつが邪魔しやがって…おかげでこんな、むさい身体になっちまったヨ!!」
ネジレバネは、鋸の身体で肩をすくめる。
兜は合点がいった。
赤春の戦い…確かに、赤ノ国の侵攻は激しかった。しかし、黄王と鋸の率いるロイヤルガードが、易々と敗れるとは信じられなかった。
「私はここで、隊長の誇りを取り戻す。私が、かつてクロム少年にそうしてもらったように!!」
兜は、仇を見つけたというように、鬼気としてネジレバネに斬りかかった。
次話>
