「旧黄ノ国領で、不穏な動きだと?」
赤ノ国の玉座で、赤王バーミリオンは急報を受ける。
「はい。先の白皇の強襲を受けて、兵力を本城に集約させていたのですが、その隙を突かれたようで…」
赤王の逆鱗に触れないように、鬼人族(オーガ)の士官は慎重に言葉を選び、上奏する。
「ふむ…」
報告を聞き終えた赤王は、傍らに控えていた娘を見やる。
「親父、オレが行ってもいいか?!」
すると赤王が予想したように、娘ガネットは宝石のような赫眼(かくがん)を煌めかせて、問われる前からそう答える。
「ふ…ならば…」
そして赤王の二の句の前に、おだんごうおを頬張っていた白翼の少女、シルビアが続く。
「あー、はいはい、もぐもぐ…みなまで言わなくて大丈夫です。もぐもぐ、どうせ文句言っても怒られるだけだし、最初から素直に同行しま〜す」
「…それは殊勝な心がけだな」
思いがけず素直なシルビアの反応に、赤王は少し面食らいつつも、冷静に応える。
「だが今回は二人きり、というわけにもいかないだろう。せっかくの機会だ。ガネット、お前に新しい部隊を任せる。軍を率いるとはどういうことか…それを実地で学んでこい」
そういうと赤王は、右手を挙げる。
するとその動きに呼応して、赤い鱗で覆われた、爬人族(リザド)に似た一団が姿を現す。
『赤鱗族(サラマンド)』…赤春の戦いと呼ばれる赤、黄、緑にまたがる大戦を経て、赤色に帰化した爬人族からなる新しい種族だ。
「お呼びでしょうか、赤王様」
そしてその先頭に立つ、隻眼の赤鱗族が一歩進み出て、伺いを立てる。
「うむ、赤鱗族の族長グレンよ。旧黄ノ国領で謀反の動きがあるようだ。彼の地は、貴様らの造詣も深かろう? ガネットの指揮下で、貴様らの力量と忠義を示せ」
「…はっ」
グレンと呼ばれた赤鱗族は、赤王の命を受け、恭しく首を垂れる。
そしてガネットとシルビアを一瞥し、鼻を鳴らして視線を戻す。
「赤王様の大義のため、我ら赤鱗族は喜んでその戦輪となりましょう」
赤王様の、という部分を強調してグレンはそう言うと、ガネットたちを残して出陣する。
「おお! 言われてすぐに出発するとは、頼もしそうなトカゲたちだな!!」
ガネットは無邪気に、赤鱗族を追いかける。
「…はぁ。楽しい、だけではすみそうにないですね」
シルビアはため息をついて、ガネットに続く。
(くくく…励めよ、ガネット。お前が口にした『覇道』、それが世迷言ではないというのなら…学ばねばならぬことは沢山あるぞ?)
鬼城を発った一団を見送り、赤王は楽しそうに呟いた。
* * * *
「確かに、順調に来られたわね」
懐かしい黄の王宮を見上げて、レモンはそう声を発する。
黄の王女レモン、その兄で従者でもある兜、そしてレモンに惚れた土人族の少年カーキの3名は、赤の領土となった旧黄ノ国領を目指していた。
年始に巻き起こった白の軍勢の襲撃によって、幸か不幸か、入国を妨げる黒境は消滅している。
新しく爬人族の族長となったベイルの協力もあって、移動経路上にはさしたる妨害もなく、一行は奪還を目指す黄の王宮まで歩を進めた。
(目論見通りではある。しかし、こうも赤の兵士がいないとは…)
兜は事前の情報収集によって、赤ノ国が現在、辺境よりも中央の再建に力を入れていることを知っている。
しかし一切の守備兵と遭遇せずに、接収されているはずの王宮まで到達できるというところまで、兜は想像していなかった。
「吉兆か、凶兆か…いずれにせよ、ここで退くわけにはいかないな」
そう言うと兜は、慎重に王宮に足を踏み入れる。
ガチャリ
「!!」
侵入してきた兜を、王宮の内部に潜伏していた守備兵達が取り囲む。
「兜?!」
気配の変化を察知して、兜の後ろからレモンが心配そうに声をかける。
「…大丈夫だ。いや、しかし驚いたな」
視線を前方に向けたまま、兜はレモンに声をかける。
兜は、王宮内部に守備兵が潜んでいることは予測していた。
それゆえに兜は、自身が先陣を切ったのだ。
しかし兜を迎えた守備兵は、予想していた鬼人族(オーガ)ではなく、自分と同じ甲人族(セクト)の戦士だった。
兜は、柄にかけていた左手をゆっくりとおろす。
呼応して、甲人族の兵士たちも武器を下げる。
やがて甲人族の兵士達の奥から、一際大きな甲冑が現れ、大声を上げる。
「おお、兜じゃないか! お前さん、生きておったのか?!」
巨体はガハハ、と体を揺らす。
「鋸(ノコギリ)隊長…?!」
兜は目を見開く。
その目が捉えたのは、兜が副長を務めた黄ノ国の女王直属軍(ロイヤルガード)…その隊長の姿だった。
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